6.2 生態学者が進化心理学者になるまで――新しい分野への挑戦
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彼女の研究は、主に行動生態学とライフヒストリー理論を背景とし、進化がいかに行動を形作っているのか、そして行動はいかに個人の利益最大化を実現させようとしているのかに注目し、ダイナミックモデルとゲーム理論分析などの手法を用いている 広い研究的関心
生物と生態学
タイの社会における性的態度と性行動
各々の文化が女性に課す制約の生態学的データおよび文化的データからの分析
19世紀スウェーデンにおける人工統計学指標と繁殖力の関係
体脂肪塗装植物の進化的作用
その中心となるのが、生態的・文化的要因が配偶や婚姻システムに与える影響 心理的ストレスが出産力に与える影響、性差の進化、伝統社会の婚姻システムなどに注目 彼女の一部の著書や論文では、自然生態系とヒトの文化・経済システムを結びつけ、同時に生態系の保護と最適な管理の重要性を強調
本文
私は進化と系統分類学(生物――私の場合は脊椎動物――の間の進化的関係性について理解する学問)に関するトレーニングを受け、心理学については正式なトレーニングをほとんど受けていない おそらくこの経歴のために、多くの心理学者とは非常に違った視点から、幅広い疑問を探索する道をとってきた
将来は医者か獣医かで迷っていた
学部生の時、フィールド生態学のプロジェクト(河川の無脊椎動物の収集)に取り組み、それがきっかけで、精神科医や心理学者、獣医ではなく、生物学者になることに決めた ヒキガエルやカンガルー、狩りバチの研究を続けるのではなく、人間行動を調べようと私が方針転換した時、最も重要な影響を与えたものの一つは、自分の息子が生まれたこと
私は息子がベッドで眠った後、夜に家で、コンピュータを使ってできることに取り組む必要があると決心した
そこで、ヒトが身につける装飾品はなんのシグナルなのかについて、初めての比較文化研究を始めた 人類学者はたいてい装飾品について持論があるので、大量のデータを容易に入手できた
データを分析し、違う分野の学者がどのように世界を見ているのかを理解しようとするのには、長い時間がかかった
ヒトの動機づけと行動について問いを立て、答えを探そうとする時、私が思うに、従来の人類学と心理学の世界を隔てるかすかな境界線を踏み越える必要がある
極論すれば、心理学者は、ヒトの思考、知覚、もっと言えば行動における普遍的特徴を探そうとする
一方で、調査対象の人々がそれぞれにどう異なるかを探ることに主要な興味をいだいている文化人類学者がいる
面白いと思う問いにたどりつくまでに時間がかかったもう一つの理由は、私が学部で初めての女性教員だったこと
私は厳重に監視されていた
アメリカの学術界においては、変わり者であること、あるいは独特の研究関心は、テニュアを得る前に、いくらか問題視される
「あなたは人間行動について研究しても差し支えないでしょうね。だってあなたはテニュアを持っているもの」
幸い、進化心理学者がテニュアトラックつきの職に就くことが多くなり、また彼らが興味深く有益な発見を続けていることにより、こうした古くからある障壁は崩壊しつつあるように私には思える
数年にわたり、私たちのグループは非公式なセミナーを催した
心理学者と人類学者、それに少しばかりの生物学者が会議に参加した
多様性のある仲間の中で、私は人間行動を理解する多くのアプローチを手に入れた
私のアプローチはまだ生物学に基礎を置いている
通常、問うことから始める
もし私たちが、ある人がとても賢くて非常に社会的な霊長類であることしか知らないとしたら、特定の状況下でその人が行うことについて、私たちは何を予想できるだろうか
哺乳類に属する霊長類であることの制約は重要
身体を維持すること(人生初期には身体を成長させること)
配偶者を見つけること
うまく独り立ちできるように子どもを育てること
我々はまた、生活史や人口構成、配偶システムといった基本的な事柄において大きな多様性を持つ、非常に可変性の高い種 文化間こうした事柄は相当に異なる
文化的伝達はヒトに固有ではないものの、ヒトにおいて極度に発達している 遺伝子だけがわれわれの発達や行動にとって重要なのではなく、文化もまた重要 文化は世界中で異なるが、国の中でも、民族、社会経済的ステータス、宗教、その他多くのものによっても異なる
私たちは、例えば,肥満と喫煙のパターンが、疫学的なモデルによって最もよく予測できることを発見しつつある
まるで肥満や喫煙が接触感染するかのように
これが普通ではないアプローチだということはわかっているが、もしかすると専門的な心理学から得られた知見に奥行きを与えることができるかもしれない
ここに2人の女性がいるとする
1人目は、18歳で結婚し、そこから20年の間に8人の子供を生んだ
2人目は、大学院を出て、35歳で結婚し、子どもを1人生んだ
2人の文化は異なる、つまり、彼女たちの周囲の人たちの価値観が違う
たとえ同じ国に住んでいたとしても、2人の心も異なるだろう
別々の国に住む女性の様々な生き方を考えれば、その違いはとてつもなく大きいだろう
私は、心理学の「普遍性」と人類学の文化多様性の相互作用に関心がある
私は、私たちが資源コントロールや性差といった重要なテーマについての自分たちのやり方についてどのように考えるのか、またそれはなぜか、また、生物的特徴だけでなく文化がどのようにわれわれの生活を規定するのかについて、広範に理解しようとすることに、興味を失ったことはない
すでに述べたように、生物学的な意味で成功を収めるには、すべての生物は、ヒトを含め、生存し、成長し、成熟し、繁殖しなければならない(文化的な成功において繁殖は必要とされない)
同じ種の中で、私たちは、真の遺伝的な一夫一婦制(人生を通じて一人の配偶者との間でだけ子をなし、両性の繁殖成功度は同一)、一夫多妻制(最もありふれた配偶の形であり、繁殖成功度は、男性で分散が大きく、女性で分散が小さい)、そして少ないけれども一妻多夫制がある 男性は子どもを育てるのを手伝うこともあれば、手伝わないこともある
人生をどのように進めるのかについて、とても大きな多様性が見られる
私の場合、配偶と父親の貢献のパターン――配偶者を得るために、そして子どもを育てるために、誰がどのような種類の労力を費やすか――に関心がある
私は、労働における性役割、子どものしつけなどについて、伝統社会の文化比較研究による研究をしてきた
先行研究はあったが、進化的な視点によるものはなかった
時には、偶然、本当に面白い問題に巡り合うこともあった
19世紀スウェーデンの人口統計学データ
次のような進化的問いに引き入れた
家族形成に資源はどのような意味を持つのだろうか
地位はどのように結婚見込みに影響しうるのだろうか
どのように人口転換が生じた可能性があるのだろうか
進化と心理学における今日の大問題の多くは、進化的に新しい(現代の)環境に関連している
長期間にわたる当たり前のパターンは、あらゆる環境下で、状況に応じて、他の個体よりもうまく生き残り、子を残した個体がいたということを意味する
自然状況にさらされることによる、長年にわたる遺伝子のフィルタリング(選別)
文化の幅の話でも同じこと
第2次世界大戦中のアメリカでは、それまでは男性だけが従事していた仕事に女性が就き始めた
戦争が終わった時に、男女それぞれにどのような心理的修正が求められたかを想像しよう
私たちは、環境の変化がどのように心理的なプレッシャーを与えるのかについて、もっと多くの、そしてもっと複雑な例を挙げることができる